音楽と教育

教育に携わる音楽好きな人間です。定期的な更新が目標です。

音をデザインすること

書籍情報

「人と空間が生きる音デザイン」/小松 正史 著/昭和堂/四六判215ページ/1900円+税

音の力で空間をポジティブに

 お洒落なカフェに行き、香り高い珈琲を飲む。お気に入りの文庫本を片手にふと気が付くと、スローテンポのジャズが流れている・・・。
 その場に聞こえる音の印象によって、場の印象も異なることは、多くの方が経験していることだろう。
 心地よく、意識に働きかけすぎない曲想や音響であれば、快適な空間になり、耳に付く音色や雰囲気と合わない音楽が絶えず聞こえてくれば、不快な空間になる。
 本書は、主役ではないけれど大切な、空間の音をデザインする小松氏の思考や実践から、音楽の奥深さを知ることができる。

背景音に耳を傾ける

 ふだん私たちが耳にする音楽や言葉など、音の意味を把握する「前景音」に対して、音が消える瞬間の余韻や雰囲気など、音の響きを把握する「背景音」がある。
 音のデザインで重要なポイントは、私たちが普段注意を向けていない「背景音」に焦点を向けること、と述べられている。

音育・音学・音創

 「背景音」を聴き取ることを含め、音のデザインに必要な力を身に付けるために、音を聴いて感動する力を身に付けることを前提として、3つのステップで説明されている。

  1. 「前景音」と「背景音」をバランスよく聴き分けられるようにしていく「音育」(おといく)
  2. 目に見えない音の情報を、目に見える記録に変換し、音のフィールドワークをする「音学」(おとがく)
  3. 音以外の感覚要素に配慮して、音をデザインする「音創」(おとつくり)

  学校教育の「創作」の概念と異なる部分が面白く、音楽教育における知覚・感受の捉え方と重なる部分もあり、大変興味深い内容である。

音の環境に意識を向け、よりよい生活空間を

現場に何度も足を運び、そこに集う人と会話し、自分の感覚を信じて作曲する。音源ができあがれば、現場空間で実際に鳴らし、浮かび上がった問題点をあぶり出す。  

 空間と音楽、互いの要素を生かし合う音づくりに配慮することについての著者の言葉である。徹底的に現場主義で、真摯な姿勢が言葉からにじみ出る。
 何気なく通り過ぎる町中、お店、公共の空間など様々な場所には音が溢れている。創り手の思いを知り、音の背景にも耳を澄まそうと思う。